Google がサポートを中止した JPEG-XL について Mozilla は中立の立場を取ると宣言

Google がサポートを中止した JPEG-XL について Mozilla は中立の立場を取ると宣言

Mozilla プロジェクトは,新しい画像フォーマットである JPEG-XL について,「中立」(neutral)の立場を取ると決定しました.JPEG-XL は,Joint Photographic Experts Group が提案していた次世代フォーマットのひとつで,現在広く使用されている JPEG フォーマットに代わるフォーマットとされています.

JPEG-XL については,Google が Chrome/Chromium におけるサポートを終了し,実際に Chrome/Chromium M110 で機能が削除されました.この出来事が,大きな反響を呼んでいたことは,記憶に新しい読者もいらっしゃるかと思います.

なぜ,Google は JPEG-XL をサポート対象から外したのか,Google の issue tracker によると,以下のような理由が挙げられています.

  • Experimental flags and code should not remain indefinitely

    [実験的なコードやフラグを無期限に残しておくべきではない]

  • There is not enough interest from the entire ecosystem to continue experimenting with JPEG XL

    [JPEG-XL の実験を続けるための十分な関心をエコシステム全体から得られていない]

  • The new image format does not bring sufficient incremental benefits over existing formats to warrant enabling it by default

    [新しい画像フォーマットは,既存の画像フォーマットと比べて,デフォルトで有効にすることを正当化するほど十分な利益がない]

  • By removing the flag and the code in M110, it reduces the maintenance burden and allows us to focus on improving existing formats in Chrome

    [M110でフラグとコードを削除することで,保守の負担を減らし Chrome に既存のフォーマットに集中することができる]

Issue 1178058: JPEG XL decoding support (image/jxl) in blink (tracking bug)

もっとも,これら理由は,抽象的な原則論であって,サポート対象から外すほど説得的かといえば,必ずしもそうではないと思われます.一部では,Google が推進する WebP や AVIF といったフォーマットと競合するからではないか,との憶測も広がっているところです.

このような状況の中,ウェブブラウザ Firefox を開発する Mozilla の Martin Thomson さんが,JPEG-XL の取り扱いについて言及されました.

After a lot of consultation (and time, sorry), we’ve concluded that we are neutral on JPEG-XL.

[多くの話し合い(それと多くの時間(申し訳ありませんでした))の末,私たちは JPEG-XL について,中立の立場を取ると結論づけました.]

There are two competing forces in play here that we need to acknowledge explicitly. Adding new formats comes with a cost, not just to us (adding, securing, and maintaining code is non-trivial), but to the Web as a whole. On the whole, having fewer formats is better for the Web as that limits the complexity of authoring and serving content. We support multiple formats only to the extent that those formats address the needs of people and sites.

[ここには,2つの競合する力があり,私たちはそれを明示的に認識する必要があります.新たなフォーマットをサポートに加えるには,コストがかかります.これは単に私たちに対してかかるコストではなく(機能追加することや,セキュリティを確保すること,コードを保守することは,些細なことではありませんが),ウェブ全体に対してかかるコストです.一般的に,画像フォーマットは,少なければ少ないほど,コンテンツを制作し提供する際の複雑さを抑えるという意味で,ウェブにとってはいいことなのです.私たちは,ユーザとウェブサイトが求める限りにおいて,複数のフォーマットをサポートします.]

We might assess a format based on features that it provides and the overall performance of the format, which includes a range of factors including compression ratios, CPU cost, and image quality. We might also look at how widely a format is used; features and performance advantages matter less for widely used formats. New formats need to justify their inclusion on the basis that they provide some material advantage over what exists.

[私たちは,その画像フォーマットが提供する機能や全体的なパフォーマンスに基づいて,その画像フォーマットを評価するかもしれません.それには,圧縮率や CPU の処理コスト,画像の品質など,さまざまな要素が含まれます.また,私たちは,その画像フォーマットがどれだけ広く使われているかにも注目するかもしれません.機能やパフォーマンスの優位性は,広く使われている画像フォーマットであることと比べると,それほど重要なことではありません.新しいフォーマットは,既存のフォーマットよりも実質的な優位性を提供していることを根拠にして,新たに加わることを正当化する必要があります.]

On the other hand, the Web has a ton of raster image formats already with many of the same problems. Adding yet another format doesn’t make the Web significantly worse for it. We acknowledge that JPEG-XL offers some potential advantages, both in terms of features and performance.

[一方で,ウェブには膨大な画像フォーマットが既にあり,それらにはたくさんの同じ問題がつきまとっています.そこに別の(新しい)フォーマットを加えたところで,特別ウェブが悪くなることはありません.私たちは,JPEG-XL が機能的にもパフォーマンス的にも,いくつかの潜在的な優位性を提供していると認識しています.]

Overall, we don’t see JPEG-XL performing enough better than its closest competitors (like AVIF) to justify addition on that basis alone. Similarly, its feature advancements don’t distinguish it above the collection of formats that are already included in the platform.

[しかし全体としてみると,私たちには,JPEG-XL が,最も近い(AVIF のような)競合フォーマットと比べて,その潜在的な優位性だけを根拠にして,新たに加えることを正当化するほど,十分なパフォーマンスを持っているとは思えません.同様に,機能的な進歩性についても,プラットフォームに既に存在するフォーマットのコレクション上で,特に目立った点はありません.]

So we don’t see support for JPEG-XL as either good or bad for the Web. We might find it necessary to support the format if usage becomes more widespread, but that will be a product decision [1].

[したがって,私たちは,JPEG-XL はウェブにとって良いとも悪いとも言えません.もし JPEG-XL が広く使用されるようになったら,このフォーマットをサポートする必要性を感じるかもしれませんが,それは,製品としての決定になるでしょう.[1]]

[1] Some reminders regarding the product planning point: Our positions on standards do influence product planning for Firefox, but they are not the only thing we consider when planning what features to build and ship. We also request that people seeking to provide updates on changes in market conditions refrain from doing so. We can re-open a position when there is new information, but updates on market conditions will not typically cause us to change our position here.

[[1] 製品計画上のポイントに関する覚え書き:私たちの標準に関する立場は,Firefox の製品計画に影響を与えますが,どの機能を作って出荷するか計画するとき,その立場だけを考慮しているわけではありません.また,私たちは,市場の条件によって(製品の)更新や変更を求める人たちに,そうすることを控えるようにお願いしています.新しい情報があれば,私たちは新たな立場を取る可能性がありますが,市場の条件が変わったからといって,私たちが自分たちの立場を変えることは,通常ありません.]

Request for position: JPEG XL#522

この理由にも,煮え切らないところがあるわけですが,意を汲んで要約すると,「JPEG-XL が既存のフォーマットと比較して,特段優れているとは思わないが,積極的に排除しなくてもいいと思う.ユーザがいるなら Firefox でサポートするかもしれないけれども,それは,Mozilla プロジェクトの立場として,この標準に賛意を示しているということではなく,使っている人がいるから製品戦略としてサポートする.」という話のようです.

JPEG-XL は,現在,Firefox の Nightly build で試験的にサポートされています.

最近のトピック

 

あまね工研は技術士事務所になりました

 

メモリ安全をめぐる C++ の仕様策定に外部要因が影響しているかもしれないとの話

 

2023年2月第2週のヘッドライン

 

人工知能にクレタ人のパラドックスをたずねてみる

 

任天堂が10%賃上げするとの報道があるも日本の労働法制事情も海外のギークに共有される

 

画像トラッキングのタスクを通じて機械学習システムの構築手法を学ぶ

 

2023年2月第1週のヘッドライン

 

Windows の実行モジュールを Linux などで動かせる Wine 8.1 が昨週に続き早くもリリースされました

 

プロファイルガイド付き最適化(PGO)機能などが追加された Go 1.20 がリリースされました

 

Google がサポートを中止した JPEG-XL について Mozilla は中立の立場を取ると宣言

 

ユーザの質問に5歳の子供でも分かる言葉で返してくれるチャットボット ELI5 を試してみる

 

Oracle Java SE の商用ライセンス変更でシステムの運用コストが大幅に増加する可能性

 

初心者のためのプログラミング言語ガイド

 

VSCode 拡張から入り込むセキュリティリスクにソフトウェア開発者はどう対応すべきか

 

Linux などで Windows の実行モジュールを実行できる Wine の最新版 Wine 8.0 がリリースされました

 

SO-DIMM に代わる新しいラップトップ用メモリ規格 CAMM を JEDEC が採用

 

2010年から続いていた GitHub の Subversion サポートが2024年1月8日に終了

 

Mastodonプロジェクトが開発者を募集中