SO-DIMM に代わる新しいラップトップ用メモリ規格 CAMM を JEDEC が採用
25年間,ラップトップ PC 用メモリモジュールの標準規格として採用されてきた SO-DIMM ですが,この度 JEDEC が,これに代わる新しい規格を採用しました.CAMM (Compression Attached Memory Module) と呼ばれるこの規格は,Dell によって設計されました.どのような規格で,どのような利点があるのでしょう.
ラップトップ用のメモリモジュール規格には,これまで長らく,SO-DIMM が採用されてきました.25年も変わらなかった規格なので,この形のメモリモジュールしか知らない方も多いのではないでしょうか.しかし,近い将来,この規格が大きく変わりそうです.新しい規格は,CAMM (Compression Attached Memory Module) と呼ばれるモジュールです.CAMM は以下のような外観をしています.
さて,そもそもなぜ,新しいメモリモジュールの規格が必要とされるのでしょうか.
CAMM の大部分を設計した Dell の Tom Schnell 氏によると,SO-DIMM が設計上の限界(glass ceilings)を迎えているからだ,と説明します.
実装される DRAM (メモリチップ) が大容量でかつ高速に動作するようになったにもかかわらず,これまで使われてきた SO-DIMM は,ほとんどその設計を変えてきませんでした.このため,SO-DIMM は,高速化・大規模化する現代のコンピュータの要件にそぐわなくなっていると言います.とりわけ大きな問題となるのが,SO-DIMM の配線長の問題です.
上記の Dell の資料を見ると分かる通り,左上の SO-DIMM は,右下の CAMM よりも CPU への配線長が長く設計されています.配線長が長いということは,それだけ大きな電力を必要とし,レイテンシ(遅延)も大きくなることを意味します.低電力化が求められる現代の PC では,より省電力なメモリモジュールが求められます.資料によると,SO-DIMM と CPU の距離が3.0インチであるのに対して,CAMM と CPU の距離は1.5インチほどに短縮されており,省電力化に寄与することが期待できます.
また,高速に通信するためには,メモリモジュールに実装される各 DRAM と CPU の長さを正確に同じ長さにする必要があります.配線の長さが変わると,通信時のタミングが変化してしまい,データの完全性(integrity)を保証できないからです.SO-DIMM では,実装面積の関係から,同じ配線長を保つことが難しくなってきており,1枚あたり128GB程度の大規模なメモリモジュールでは通信速度に影響が出てくるといいます.
Schnell 氏は,今のところ SO-DIMM は,まだ限界に達していないものの,近い将来,より高速な次世代メモリモジュールである DDR6 の時代が来ると,SO-DIMM の限界が露呈すると指摘しています.その他にも同氏は,信頼性や実装面積,放熱性の点でも,CAMM が優れていると主張しています.
このような利点が認められたためか,今回,メモリモジュール規格を監督する JEDEC は,CAMM を次世代メモリモジュールとして採用しました.規格を採用する決議は,JEDEC に所属する各メーカの代表による無記名投票で行なわれました.このため,誰がどのような理由で賛成票を投じたのかは分かりません.しかし,ひとまず結論として,CAMM は Dell が独自に策定した規格という位置付けから,JEDEC が採用するメモリモジュール規格として「格上げ」されたことになります.
これまで広く使われていた規格を変更するとなると,少なからぬ論争が起きそうで,実際「CAMM は Dell のプロプライエタリ製品になる」との誤解が広がったりもしました.しかし今回,JEDEC は,このモジュールを比較的簡単に採用したそうです.Dell も当面は,特許やライセンスの問題を棚上げにして,規格化を優先するようです.
エンドユーザの立場からすると,これまでの PC 資産との互換性が気になるところです.まだ,正式な実用化には長い道のりがありそうですが,注視していきたいところです.